ギー。
老人が物凄く苦手だ。
これまで十数年間生きてきた中で老人から気に入られる事なんか一度もなかったかも知れない。部活の外部顧問や電車の中の老人、思い出すだけで泣きそうになる。
その中でも特にトラウマに残る老人が一人いた。その老人の名前は覚えていないがあの日の事は絶対忘れないだろう。
数年前に遡る....
当時中学二年生だった僕は職場体験として老人ホームにいた。
体験先は生徒によってランダムだがクジ引きで決まるので本当にどこに行くかわからない。
老人ホームの仕事内容は、スタッフの手伝いや老人の方とのコミュニケーションをとったりするなど、至ってシンプルでそこまで刺激的な内容ではなかった。
「鎧坂くん。ちょっとあの方とレクレーションしてくれない?」
分かりました。とスタッフの方に返事をして、その方と一緒にレクレーションをする事になった。
レクレーションのルールは簡単。
僕がいくつかのアルファベットが印刷されたパネルを老人の方(名前が思い出せないので山田さんとする)に見せて「〇〇はどこですか?」と聞くだけ。それに対して山田さんがアルファベットに指を指す。レベル1の脳トレだ。
「Gはどこですか?」
「....ここ。」
「Dはどこですか?」
「....ここ...」
こんなやりとりが10分続いた。
すると見守っていたスタッフの方が山田さんを褒める。
「山田さん、凄いですね!!!次は山田さんが鎧坂くんに問題を出すのはどうでしょうか?」
他の中学生が別の職場で一生懸命仕事をしてる中、僕の仕事は「アルファベットに指を指す」に決定してしまった。まあいい。こんな体験二度とないだろうし。
「分かりました。今度は山田さんが僕に問題を出してくださいね。じゃあ、お願いします。」
「.....ギー。」
「え?」
「...ギー。」
「えっ???G?」
「ギー!」
「D.......???」
「ギー!!!」
「えっ!?ちょ」
「ギー!!!」
「ギー!!!」
「ギー!!!」
「ギー!!!」
「ギー!!!」
「ギー!!! 」
「ギー!!!」
「ギー!!!」
....なんて事だ...山田さんが突然イカれて暴走し始めてしまったではないか。一体いつ僕が山田さんの地雷を踏んでしまったと言うんだ。
スタッフの方があわてて山田さんを羽交い締めする。山田さんは僕にメチャメチャキレてるらしく、死ぬほど睨みつけられた。って言うかスタッフの方もあらかじめ山田さんの滑舌ついて説明しろよ。
山田さんがスタッフの方に抑えられながら別の部屋に連れていかれている。僕は震えて動けなかったが、最後に山田さんと目が合った。
「 許さんぞ!」
「貴様は許さん!」
(バタン....)
こうして僕の職場体験は終了した。
他の生徒達はプリントにレポートを書いて次々と提出していたが僕は2時間経っても白紙のままだった。